『質の高い嚥下調整食提供のための給食運営と栄養改善効果』について、NTT東日本関東病院 上島先生にお話を伺いました。
NTT東日本関東病院様では、他の施設でも取り入れやすい嚥下調整食づくりに取り組んでいらっしゃいます。
既製品を上手く活用しながら栄養価を高めるだけでなく、彩りや見た目の美しさにもこだわり、患者さんが「美味しく、楽しく食べられる」食事を大切にされています。
『質の高い嚥下調整食提供のための給食運営と栄養改善効果』
嚥下調整食の栄養強化の意義
嚥下障害を持つ高齢者や患者にとって、嚥下調整食は安全に食事を摂取するための重要な手段です。
しかし、従来の嚥下調整食は食材を水やだしでミキサーにかける調理法が一般的であり、加水量が多いために栄養密度が低下しやすいという課題がありました。
その結果、エネルギーやたんぱく質の摂取不足を招き、低栄養リスクを高めることが指摘されています1)。
日本の病院で実施された嚥下調整食の提供実態調査2)3)では、多くの施設で提供されている嚥下調整食の栄養量が十分でないことが明らかになっています。
嚥下障害患者はもともと低栄養になりやすい集団であり、栄養摂取不足は低栄養リスクをより高めます。その中でも特に高齢者は、栄養摂取不足が筋肉量の減少やADL低下を招きやすいという特徴があるため、注意が必要です。
これはリハビリ効果の減弱や生活の質(QOL)の低下につながります。高齢化が進む日本において、嚥下調整食の栄養的改善は急務といえます。
導入事例:NTT東日本関東病院
NTT東日本関東病院では、委託給食会社と協力しながら栄養強化嚥下調整食の導入を2022年から開始しました。
院内勉強会の開催を経て、学会分類2・3・4の嚥下調整食を対象に、栄養価や物性の統一、食材費の調整を行いながら試作と改良を繰り返しました。
調理の工夫としては、プロテイン粉末や食用オイルを食事に加え、従来の食事量を変えずにエネルギーとたんぱく質を効率的に強化しています。
調理の手間削減や物性の安定を目的に、既製品も積極的に活用しています。
特に、マルハニチロさんが提供している、たんぱく21シリーズは栄養強化されている既製品ですので、重宝しています。
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導入後の分析では、食事重量をほぼ変えずに、1日あたりの平均提供栄養量がエネルギー1200kcalから1600kcalへ、たんぱく質は45gから57gへと大幅に増加しました。
導入後も毎月の献立会議を通じて継続的な改善を行い、安定した品質と食べやすさを維持しています。
さらに、食事の彩りにも工夫を加えることで、見た目の楽しさや食欲の維持にもつなげています。


当院の栄養強化嚥下調整食写真
急性期脳卒中患者での臨床効果
当院では、栄養強化嚥下調整食の臨床的効果を検証するため、急性期脳卒中高齢患者を対象に導入前後で比較検討を行いました4)。
その結果、従来の嚥下調整食群と比較して、栄養強化嚥下調整食群では入院中のエネルギー摂取量が約200kcal/日多く(1064.9kcal vs 1231.7kcal)なりました。
さらに、日常生活動作の改善度を示すBarthel Indexの上昇幅が有意に大きく(+4.6点 vs +20.0点)、リハビリ効果が強化されることが明らかになりました。
この結果は、栄養強化嚥下調整食が単なる栄養補給にとどまらず、リハビリ効果を高め、身体機能回復に寄与することを示しており、臨床的にも大きな意義を持ちます。
今後、急性期病院では栄養強化嚥下調整食の提供は必須になることと思います。
「栄養強化+楽しさ」が求められる時代へ
嚥下調整食は、安全で栄養的に十分であることに加え、「美味しく、楽しく食べられる食事」であることが求められています。
彩りや見た目を工夫することで、嚥下障害があっても食事を生活の楽しみの一つとして位置づけられ、心理的満足感やQOL向上に寄与します。
マルハニチロさんで提供されている、カラフルかつ再現性の高い既製品を活用することで、見た目も味わいも魅力的な嚥下調整食が提供可能となります。
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嚥下調整食の栄養強化は、安全性と栄養補給の両立を達成するだけでなく、患者の健康維持・機能回復を支え、「生きる喜び」を取り戻すための重要な取り組みといえるでしょう。
参考文献:
- Ueshima J, et al. J Am Med Dir Assoc. 2022;23(10):1676-1682. doi: 10.1016/j.jamda.2022.07.009.
- 上島他. 日摂食嚥下リハ会誌 28(2):67–78, 2024.
- Shirai Y, et al. Cureus. 2025 Jun 17;17(6):e86191. doi: 10.7759/cureus.86191
- Ueshima J, et al. J Am Geriatr Soc. 2025 Apr 11. doi: 10.1111/jgs.19468














