価格高騰が続く昨今、施設での食事提供は本当に大変な状況ですよね。
今回は、『限られた予算内で実現する施設メニュー開発術』と題し、価格高騰の中でも患者様に喜んでもらえるお食事を作り続けていらっしゃる医療法人社団 天紀会 こころのホスピタル町田 栄養士 山口育恵先生にお話を伺いました。
山口先生の工夫やアイデアには、きっと皆さんも「なるほど!」と思うヒントがたくさんあると思います。
ぜひご覧ください!
こころのホスピタル町田では、常菜食、軟菜食、刻み食、ミキサー食(ソフト食)まで様々な食形態に対応されています。
特に嚥下機能に配慮が必要なソフト食の患者様には、月に1回のイベント食の際に、手作りと併用しながら、マルハニチロの「やさしい素材シリーズ」を始めとする既製品の介護食を活用されています。
今回は限られた予算内でもできる食事提供時の工夫と、食材費への工夫をご紹介します。
【第1章】価格高騰対策には食材の置き換えで満足度をキープ
ー「見た目は同じだけど実は違う」満足度をキープする4つの置き換えテクニックー
価格の工夫で最も大切にしているのは、満足度はキープするということです。
食材価格が高いからといって食事量を減らしてしまうと、満足度も栄養価も下がってしまいます。
そうならないように工夫している点を下記に幾つか記載します。
●満足度をキープする4つの置き換えテクニック●
①同じ色味の食材で置き換える。価格の安い食材を増やす。
こちらは常食の場合ですが、例えば、長芋の価格が高い時は豆腐やカリフラワーに変えています。価格の高いアボカドを入れたいメニューなら、分量を少し減らして他の野菜を増やすなど、割合で全体量が少なくならないよう調整しています。
②魚のgを減らす代わりに、付け合わせを増やし全体量はキープ。
魚については、以前は70~90gで出していましたが、今は70~80gにしています。その分、付け合わせや小鉢にたんぱく源を追加。ボリュームを増やして、全体量はあまり変えないよう気をつけています。 魚の種類も都度見直し、価格が安いものに置き換えています。
③調味料の工夫も効果的。
定番の大根おろしと醤油の組み合わせを、大根おろしにゆかりを入れて小袋の醤油をなくしたり、手作りのレモンドレッシングにして洋風っぽくしたりしています。味に変化を出しつつ、小袋醤油の費用を削減しています。また、普通の食材でも、組み合わせで少し変わった印象になります。 きゅうりやもやしを付け合わせにしたい時など、甘酢生姜を加えると調味料を足さなくても、付け合わせとしてちょうどいい味になります。
④ミキサー食(ムース食)は手作りと既製品を組み合わせて提供。
生魚が高騰している中、既製品の魚のムースの方が安いこともあります。既製品は高いというイメージがありますが、価格を比較してみると意外に安い場合もありますのでぜひ確認してみてください。
当院ではやさしい素材魚シリーズなどを活用しています。魚の形がわかりやすく患者様にも好評です。

▲「たんぱく21赤魚」を使用したメニュー
たんぱく21シリーズは魚の切身の形になっている
食材費は決められた金額を目標に、月単位で調整しています。行事食で少し予算を超えることもありますが、1か月の中で調整するようにしています。価格の見直しや食材の切り替えは気が付いたタイミングで都度実施しています。
【第2章】料理名の工夫でワクワク感を演出
ー「モノクロ料理って何だろう?」患者様の想像力をくすぐるー
当院は精神科病院のため、一般病院に比べ入院日数が長いのが特徴です。
入院日数が長い患者様に、少しでも食事を楽しんでもらいたい。そんな想いで、普段の献立はわかりやすい料理名にしていますが、イベントの時はあえてわかりにくくする工夫をしたり、告知ポスターを提示してイベントを楽しみにしてもらえるようにしています。
●メニュー名で想像力をくすぐる●
例えば「モノクロ料理」や「魔女スープ」といった、一体何が出てくるのかワクワクするような、患者様に考えてもらう料理名に。そうすることで、患者様からも「モノクロ料理って何?」「何が入っているの?」というお食事を楽しみにしている声をいただき、普段と違うワクワク感を演出できます。

▲モノクロ料理の提供時の写真
左から、常菜食、軟菜食、ムース食
テーマに沿って、白と黒の食材を使用

▲左から告知ポスター、常菜食・軟菜食のメニューカード、ムース食のメニューカード
告知ポスターに詳細は書かず、患者様にどんなメニューか考えてもらうようにしている
〈これまでのイベント食 料理名一例〉
モノクロ料理、魔女スープ、鳳梨緑茶ゼリー(薬膳料理)、パワーサラダ、モーモーチャーチャー 等
料理名を決める際は、使用したい食材を決めてから考えることもありますし、料理名を先に考えて使いたい食材をいれていくこともあります。変わったメニュー名やトレンド感のあるメニューは、日頃からテレビを見ていて気になったものをメモしてストックを増やしています。患者様からの要望でメニューを決めることもあります。
●病院全体でサポートする体制●
こうした取り組みができるのも、病院全体でサポートしてくれる体制があるからです。
毎月の給食委員会では多職種が参加して、新しいメニューについて事前に相談できます。
イベント時にハンバーガーとコーラを提供した時は、コーラの提供は初めてだったので委員会で意見を確認して、提供時の見守りを強化してもらいました。栄養部だけでなく、病院全体でイベント食をサポートしてくれています。
その中でも、ソフト食の患者様へは特に配慮しています。ソフト食は献立表を病棟に配布していないので、行事食の時は何が出ているかわからないのです。そこで手作りのカードを作って、何が出ているかわかるようにしています。 普段は効率を重視していますが、行事の時は見た目重視で食材を選んだり、調理工程を増やしたりして、特別感を演出しワクワクしてもらえるよう心がけています。

▲手作りのメニューカード
毎回デザインも変えて、お食事を楽しんでいただく工夫をしている
【第3章】栄養バランスも配慮
ー不足しがちな栄養素への対応ー
価格を抑えながらも、栄養面での配慮は欠かせません。 どうしてもカルシウムや食物繊維が不足するので、汁物がつく時には栄養補助剤を添加しています。週に2回麦ごはんを出して、お粥の人には繊維入りのお粥を提供しています。患者様によっては全粥にMCTオイルを添加したり、全量食べられない方には補助食品をつけて、食事の時間以外でも食べられるようにしています。 栄養価が足りない場合は、一日の総合計で見たり、それでも難しい場合は1週間で見たりして調整しています。
【第4章】チームワークが支える継続的な工夫
ー連携で実現する食事提供ー
調理師さんとの連携も大切にしており、調理工程表には細かい切り方や手順、盛り付けのポイントまで書いています。調理後もコメントを記載できるようになっているので、次回の作り方の工程改善に役立てています。 新しいメニューを提供する際は、事前に調理師さんと打ち合わせを実施し、かたさが気になる場合も委員会で確認するなど、安全面にも配慮しています。

▲調理師さんと共有されている調理工程表
作り方からコメントまで詳細に記入されている

▲調理室前の棚には
これまで作成した調理工程表が並び、いつでも確認が可能
【第5章】患者さんに喜んでほしい!無限に広がるアイデア
ー日常の「気になる」をメモする習慣が、アイデアの根源ー
今後イベント時に挑戦したいメニューがいくつもあります。
●今後挑戦したいメニュー構想●
・9月実施した『ガチ中華』は、四川、北京、上海、広東の地域別メニューを提供しました。病院だと辛いものは難しいので、通常の食事では提供しないようなメニューに挑戦してみました。
・『Japaneseハーブ料理』というのもやってみたいです。大葉、みつば、水菜などの香味野菜をJapaneseハーブと言えば、いつも出しているものでも名前でインパクトがあります。
・ 『グラデーション料理』も面白そうです。例えば、「やさしい素材 とけないゼリー野菜」のピーマン、ほうれんそう、はくさい、えだまめも緑色でも結構色味が違うので、薄いのから濃いのまで並べたらきれいだと思っています。
●アイデア収集のコツ●
盛り付けのアイデアは、Instagram、料理本、テレビ、最近は街中のポスターの色合いまで見てしまいます。
トレンドやワード、デザインなど、気になったものは携帯のメモ機能にすぐにメモをしています。

▲ガチ中華
左から告知カード、常菜食・軟菜食のメニューカード、ムース食のメニューカード
【実践編】手作り&既製品活用レシピご紹介
ーInstagram投稿レシピから厳選3選!ー
普段は手作りですが、月に1回のイベント食の際には、手作りと併用しながら既製品のムース食を活用しています。これまでにInstagramに投稿した、手作りしつつ、やさしい素材も活用したレシピを3つご紹介します。
①白いグラタン レシピ詳細はこちら
〈使用商品〉やさしい素材いか、温野菜れんこん、温野菜さといも、温野菜ひじき、とけないながねぎ

②鯉のぼりカレー レシピ詳細はこちら
〈使用商品〉やさしい素材ポーク(ブロック)、えび、温野菜いんげん、とけないたまねぎ
③アボカドとサーモンポキ丼 レシピ詳細はこちら
〈使用商品〉やさしい素材サーモン、とけないたまねぎ、温野菜キャベツ、きゅうり、とけないえだまめ

最後に
いつも新しいことをやりたいと思っています。やりすぎないよう気をつけてはいますが、イベントの時はやりすぎるぐらいで行こうと思っています。 限られた予算という制約がありますが、だからこそ工夫が生まれると感じています。大切なのは患者様に喜んでもらいたいという気持ちを忘れずに、チーム一丸となって創意工夫を続けることだと思います。 同じような課題を抱えている皆様の参考になれば幸いです。
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