栄養情報提供書を活用した他院との連携

『診療情報提供書を活用した他院との連携』について、武蔵野赤十字病院 森先生にお話を伺いました。

武蔵野赤十字病院様では、栄養療法や食事環境、患者さんへの関わり方など、他院の方が栄養情報提供書を見て武蔵野赤十字病院様の様子を把握でき、その日から食を通じた継ぎ目のない関わりを行えるような診療情報提供書の記載を心がけていらっしゃいます。


 

令和 2 年度(2020 年度)診療報酬改定の個別改定項目において、

入院栄養食事指導料の追加加算として、退院後の栄養・食事管理について指導するとともに在宅担当医療機関等の医師又は管理栄養士に対して、栄養管理に関する情報を文書により提供を行った場合の評価として栄養情報提供加算が新設されました。

入院栄養食事指導料を算定している患者について、上記情報提供の要件を満たした場合に、栄養情報提供加算として、入院中に1回に限り、50 点所定点数に加算することができるようになりました。

 

今回、当院に入院した患者が摂食、嚥下機能低下を認め、改善途中の状態にて転院するにあたり、栄養情報提供書を活用して他院との連携を図った症例についてご紹介します。

 

症例

A さん 60 代前半男性。身長 170cm、体重 73.7kg、BMI25.5(kg/㎡)

右手でボタンがかけにくいことに気が付き、構音障害を認め、以前の脳梗塞と症状が似ていたため当院受診。検査の結果から左被殻出血の診断。出血のコントロール目的で入院となり、入院中に関わった患者さんになります。

 

現病歴について

48 歳時に左脳梗塞にて当院に入院し、右手の不全麻痺で発症したが軽快して退院となりました。

抗血栓薬をしばらく飲んでいたが、腰椎椎間板ヘルニアでペインクリニックを受診したタイミング(2016年頃)以来、服用を中止していました。

 

生活歴について

飲酒:焼酎水割りで 1L/日を毎日摂取 喫煙:20 本/日×28 年

妻、長女との 3 人で生活し、食事は妻が担当していました。

 

既往歴

高血圧(未治療 普段の血圧不明) 左脳梗塞

腰椎椎間板ヘルニア

ここ数年は健診など受けていなかった 内服:現在はなし

食物アレルギー:なし

構音障害強いが、指示動作良好 疎通良好 失語も認めず、GCS(Glasgow Coma Scale):456 NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale):7(顔面神経 2,右上肢 1,右下肢 1,感覚障害 1,構音障害 2)

構音障害は重度であり、アイス棒を試すも右口角からこぼれてくるため誤嚥リスク高く経管栄養留置となる。

 

入院時経過

day1: 誤嚥リスクがあるため経管栄養を 1350kcal/日から開始となりました。

 

day5 : 口腔外科評価:傾眠強く間接訓練が開始されました。

 

day13  :意識状態のレベルの改善が認められ、嚥下開始食(学会分類 2021:0j)を開始することとなりました。

唾液貯留多く摂取前から流延あり、咳嗽弱く痰量多いため昼のみ訓練となりました。

 

day15:むせなく嚥下できるが、顔面麻痺あり右側から食べこぼしを認めていました。

舌での送り込みが不十分で吸い込みながら口に運んでいる様子があるため ST  から鼻をつまんで飲み込みを実施すると軟口蓋の挙上がしっかりできるのではという助言があり、行いながら食事をしました。

3 食開始食に変更し、舌運動強化していくこととなりました。

ゼリーによる直接訓練は左手で左側から飲み込みも意識できている様子が伺えました。

 

day19:高栄養半固形食(学会分類 2021:1j)を試したところ、むせることなく摂取できたことから、経管栄養での栄養投与の必要性について協議し、高栄養半固形食+栄養補助食品(計 400kcal/日)へ変更とし摂取量に応じた経管栄養の減量スケール対応とすることになりました。

 

day20:摂取良好のため経管栄養中止し、経口摂取のみとなりました。

 

day21:口腔内残留あるが、本人の自覚範囲であり、口腔外科医師より追加嚥下指示があり食事内容は継続の上、要観察となりました。

 

day22:きざみとろみ食(学会分類 2021:4)へ食上げとなり、以降多少の摂取ムラあるも概ね 10 割摂取し栄養補助食品付加(400kcal/日)栄養量が充足できるようになりました。

 

嚥下調整食学会分類2021 コード4相当のお食事

全粥M、鰆の煮付け(New素材deソフト さわら(マルハニチロ)、付け合わせ 蒸し茄子)、
キャベツの塩炒め、パウダーふりかけ、やさしい素材 りんご(マルハニチロ)

 

全粥、サバの味噌煮(New素材deソフト ノルウェーさば(マルハニチロ)
、里芋の含め煮、たまご風味ソース、やさしい素材 いちご(マルハニチロ)

 

パンムース、いちごジャム、コーンポタージュ、
やさしいおかず みためがウィンナー(マルハニチロ)やさしい素材 キウイ(マルハニチロ)、栄養補助食品

 

day25:リハビリの目的にて転院となりました。

 

家族情報でもともと納得いかないことがあると怒りやすく、加えて構音障害で疎通が図れないことで入院当初は易怒的な面もありましたが、食事管理や摂取訓練、PT、OT、ST の熱心なリハビリもあり構音障害は改善を認めて落ち着いて入院を送れるようになりました。

 

課題のまとめと対応について

この方の問題点としては入院当初は構音障害で経口摂取が難しく、嚥下訓練をしながら経管栄養管理、そして摂取量に応じた経管栄養の減量やリハビリに合わせた栄養量の設定、空間無視、口腔内残留などの問題がありました。

そのため、週 2 回の口腔外科医師や病棟管理栄養士、担当看護師によるミールラウンドにて易怒的になってしまうため栄養補助食品を活用しながら可及的速やかな経管栄養の中止やリハビリ職種との連携で食上げをしながら適宜健側に食物を置いてみる、空間無視に対しての声かけを行いました。

この患者さんの方針としては自宅退院を目標にリハビリ転院となったため、転院先に必要な栄養量や現在の患者さんの食環境、追加嚥下で対応が可能な口腔内残留、当院では完遂できなかった課題点について栄養情報提供書にてお伝えし、転院先でも当院と同じような食環境や栄養療法を継続できるようにシームレスなサポートを目指しました。

また、この方には実施していませんが必要に応じて、体組成測定や歯科口腔外科による嚥下造影検査なども行い、患者さんを栄養面からサポートしています。

 

 

プロフィール

関東学院大学栄養学部管理栄養学科卒業後、武蔵野赤十字病院に入職。

入職以降、婦人科,泌尿器科,総合診療科,内分泌代謝科を担当。

5年目の現在は脳神経外科,脳神経内科,整形外科,消化器内科,腎臓内科,消化器外科の病棟を担当。

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