|コラム|嚥下食の新たなチャレンジを病棟常駐へのステップへ

『嚥下食の新たなチャレンジを病棟常駐へのステップへ』について、

東京医科大学病院 栄養管理科 伊藤明日香先生にお話を伺いました。


診療報酬改定でみえてきた管理栄養士の役割

令和4年度の診療報酬改定では重点課題として安心・安全で質の高い医療の実現のため医師等の働き方改革等推進が掲げられており、タスクシフトにおいて管理栄養士の専門性も期待されるような改定となりました。新設された「入院栄養管理体制加算」はまさに病棟常駐型の管理栄養士を推進していくような内容ですが、一方で施設基準として「当該病棟において、専従の常勤の管理栄養士が1名以上配置されていること」と明記されており全国の多くの施設において管理栄養士の業務内容の改革が迫られていることと思います。当院では今回の診療報酬改定に関わらず、3年前より管理栄養士の病棟常駐に向けて準備を進めてきましたが、やはり厨房業務の完全委託化という部分が大きな壁となりました。管理職ではない私たち一管理栄養士にできることはないのか、考えた末に出てきた答えが「ムダをどれだけなくせるかへの挑戦」でした。少しのムダを改善したところで給食業務を完全委託化するまでのコスト削減とはならないかもしれないけど、まずは1歩踏み出してみよう、そんな気持ちで始めたのがこの嚥下食の改革です。

 


嚥下食のここが難しい

まず、嚥下食には以下のように多くの問題点があると考えます。

おそらく、当院だけではなく多施設の管理栄養士の先生方も同じような悩みを持っているのではないでしょうか。実際に改定前の当院の嚥下食は学会分類に沿っていない独自の嚥下食を提供しており、とろみややわらかさの点で安全だと自信をもって言える食事ではありませんでした。理想としては、安全かつ効率的で患者さんの摂取が進むような満足度の高い嚥下食をつくりたいというところでしたが、当院のような大学病院では食数も多く、嚥下食を必要とする患者層は高齢者に限らず幅広いことを考えると、もはや通常の食品だけで理想の嚥下食を作るのは難しいのではないかというところにたどり着きました。何より、どうすれば嚥下食をより良いものにできるだろうと考えれば考えるほど、嚥下食を作り出す工程の改善に時間と労力がかかることがわかりました。これでは病棟にいる時間が少なくなり、病棟常駐できない、そこで今回マルハニチロの既製品を導入することを決めました。

 


当院の嚥下食への挑戦で見えてきた様々なアウトカム

当院では嚥下調整食学会分類2021のコード1j、2-1、3、4の4種類を提供しており、既製品はコード2、3、4に使用し提供しています。特に通常の食品ではやわらかくすることに限界がある料理を既製品に置き換えています。以下は既製品を導入する前と導入後のサウザンサラダの比較です。改定前は野菜をしっかり煮込んで軟らかくした後に刻んでトロミをつけていましたが、改定後はあらかじめ解凍しておいた既製品を盛り付けてトロミ付きのドレッシングをかけるだけとなりましたので作業時間が大きく短縮されました。またなんといっても無駄な加水をしなくて済み、見た目も大幅に改善されたことで患者さんの食事摂取量増大に貢献できていると考えています。

全体的な調理時間としては、既製品を使用することで仕込みや形態加工の時間が大幅にカットでき、当院では1品あたり20分の短縮を実現できました。

また、献立にも大きなメリットが生まれました。既製品導入前は常食や全粥食の献立をそのまま使用し刻んだりペーストにしたりしていたため、加水量がかさんでしまっている上に品数も主食量も多い、まさに患者さんにとっては苦の食事であったように思います。それが、元々少量で高栄養が摂れる既製品を導入することで主食の重量や副菜の品数を減らして140g程度の重量減少となっても栄養量はしっかりと確保できる献立に変化しました。

すでに安全な形態となっている既製品を使用することで様々な料理や味付けにも応用がきき、献立のレパートリー拡大にもすぐにつながっていきました。実際にミールラウンドをしてみると、「和食だけじゃなくて洋食や中華も出てきて飽きない」、「形がちゃんとあるから何が出ているのかわかる」、「もう食べられないのかと思っていた食品が出てきて感動した」、「盛り付けや彩りに配慮されているのがわかるから見ても楽しい」といった声をいただいています。

 


嚥下食の改革を病棟常駐へつなげる

このように、嚥下食の改革を行うことで作業効率化がはかられ、委託会社に嚥下食を任せても常に安定した形態で食事提供を行うことが出来るため管理栄養士が病棟へ滞在する時間が増えていくことに繋がりました。当院では2022年4月より、給食業務を完全に委託化し管理栄養士は全員病棟に常駐していますが、これはそこまで少しずつ各業務の見直しを繰り返して病棟にいく時間を積み重ねてきた結果だとも思っています。以下は実際に私が経験してきた業務時間の変化です。どうしても病棟で患者さんのベットサイドで栄養管理がしたいという強い思いで地道な業務整理を続けてきました。

給食業務の完全委託化は病院の運営にかかわることですので業務改革をしただけですぐに実現するとは限りません。ただ、管理栄養士が病棟に常駐するためには給食管理の業務改革がマストであり、そのためには一つ一つの業務整理が必要になるということです。そのなかで嚥下食の改革というのは問題点が多い分、大きなアウトカムに繋がったように思います。既製品を使うとコストがあがらないか、といったことを聞かれることもありますが、既製品導入によって得た作業効率化が人件費の改善となる上、診療報酬改定後の今、管理栄養士が病棟常駐することで得られる診療報酬がどの程度になるかシミュレーションをすればおのずと答えがみえてくるはずです。今回の改革で作業効率や業務時間だけではなくより安全な形態を提供できることや患者さんの満足度にも貢献できていると考えています。患者さんに喜んでもらえるような食事にできるようこれからも委託給食会社のみなさんと共に嚥下食の改革を続けていこうと思います!

 


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プロフィール

東京医科大学病院 栄養管理科 伊藤明日香先生

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